ミドリ草BLOG

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擦り切れそうな人間関係摩擦と経営者のワガママ暴言に辟易としつつ自己嫌悪と闘いながら今日も自立を夢見て

続 ・ハラスメント問題

先日、某大手企業の上級管理職の方とお食事を1席共にさせて頂いた。

その時のお話を少々。

 

とある飲み会にて。

酔った部長が特定の部下の仕事について、皆の前で叱責した。

翌日その上司は叱責した部下に謝罪を申し出たが、当の部下は謝罪を受け入れず、結果、パワハラ被害として役員に申告。数日の調査の後、部長のパワハラが認定され、降格処分を受けた上、その部長は他拠点に異動となった。

 

事実のみ並べると、さもありなんと思う方が大半であろう。上記はパワハラの典型例で、事例としては珍しくない。

 

しかし、事案の背景や詳細にこそ、問題の本質が潜んでいる場合は多い。

 

事案の背景と、ちょっとだけ詳細

 

叱責を受けた部下は与えられた職務内容を十分にこなす事が出来ず、仕事の進行の仕方について上長より度々指導を受けていたが、自分の仕事の仕方こそ正解と信じて指導に従わなかった事で、部内でも問題視されていた。

一方叱責した側の部長は、強引な部分はあるが成績も申し分なく、事業所開設以来最高高の売上を達成しようとしていた。部下の信頼も厚く、皆より率先して仕事に取り組むような人であった。

 

酔った勢いとは言えど、皆の前で特定の従業員の尊厳を傷付けた事に気づいたその部長は部下に謝罪をしようとしたが、部下は「もう二度とあの部長とは話したくない」と謝罪を拒否、パワハラ被害申告に至る。

 

パワハラ被害申告を受けた役員は調査に乗り出した。ハラスメント委員会を招聘し、当事者への聞き取り調査を実施。

ハラスメント行為者である部長は、自身のした行為に非がある事を素直に認め、言い訳はしなかった。

ハラスメント被害は認定され、叱責を受けた部下の言い分は全て通った。

部長は早々に転勤したが、叱責を受けたその部下は、その後も仕事のやり方を改めず、社内では同僚に対し「部長をパワハラで飛ばしてやった」と言ったという。

 

 

 

ここで悪者が加害者から被害者、もしくは加害者を擁護する視点に変わった諸兄、ぜひ注意してもらいたい。昨今話題の「明石市長の暴言」に関しても、上記の例のような背景があったかもしれない。あったとしたら泉市長の暴言は許容されるのか。

 

私は、パワハラ問題の本質は「誰が悪かったか」ではないと思う。

 

パワーハラスメント防止対策についての考え方

 

平成30年 雇用環境・均等局「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」によれば、

 

  1. 優越的立場で行われた
  2. 業務の適正な範囲を超えた
  3. 身体/精神的苦痛を与えた、若しくは就労環境を害した

 

以上の要件をいづれも満たす行為がパワハラだとされている。

また、厚生労働省が実施するハラスメント被害防止対策研修では、特にパワハラに関しては事前に従業員に対してハラスメント発生状況や意見等に関するアンケート等の調査を用いて情報収集し、現状を確認の上労使間協議を以てパワハラ認定基準を企業内で策定し、どういった行為がパワハラにあたるのかを社員教育等を通じて従業員に十分周知する事とさている。

勿論、懲罰の軽重に関しても慎重に決定しなければならない。下手をすると労働紛争に発展する。

被害が発生した場合は行為者/被害者/第三者への聞き取り調査を行う事になるが、その際必ず留意しなければならない事は、加害者にも人権があるという事だ。つまり、被害を与えたとはいえ、過重な懲罰を課して行為者のキャリアや人生を破壊してしまってはならないのだ。よって調査は慎重に、公平に行わなければならない。

調査結果によって被害行為が認定されれば行為に応じたペナルティが課されることになるが、あくまで行為の程度に応じたものでなければならない。

職場内のパワハラは基準の設定が難しく、検討会報告書によるパワハラ基準も解釈の幅が広い。パワハラ認定の判断は社内調査の精度如何となるが、これがなかなか難しい。調査が不十分であったり関係者の主観が働けば判断を謝りかねないし、思わぬ結果を招く事にもなる。

早期解決を図る為に少人数で手早く調査を済ませ、少ない情報の中で軽々しく判断してしまってはならない。

 

マニュアル対応のパワハラ防止策がもたらす職場環境への悪影響

 

例え仕事に不備があろうと能力が発揮されていなかろうと、個人の尊厳を傷つけるような発言は避けるべきであろう。まして職制が上位であればある程責任も重く、軽はずみな言動が許されない立場にもなる。ここは行為者である部長も認めている部分だ。

しかし調査は第三者、例えば被害者の同僚や飲み会出席者にもしっかり行ったのだろうか。

ハラスメント被害が起きた現場での状況や程度等に関して、客観的な第三者の意見を過不足なく収集し、懲罰の程度を決定したのだろうか。パワハラの事実があったこと、被害が発生したことのみを以て懲罰を決定していないだろうか。

勿論、行為者の実績や立場を斟酌して行為認定やペナルティの軽重を決定すべきではない。行為の事実のみにフォーカスしなければ、判断の公平さを欠いてしまう。

また、処分がなされた後、処分の根拠等について周知は行われただろうか。

ハラスメント防止対策は懲罰を与える為のものではない。職場環境を向上させ、皆が働きやすい職場を創るためにすることだ。

処分の理由を明示し、全員で共有することで未然に被害を防ぐことが出来るようになっていく。そして個人的に重要であると思うのが、処分後は行為者/被害者は勿論の事、周囲の第三者も、いつまでも被害があったことを引きずらず、フラットな視点に戻すといった認識が必要になる。

「あの部長、去年○○でパワハラして降格されたから信じられない」

「あいつこの前○○と言われただけで大げさに騒いで、○○部長をパワハラで訴えた自意識過剰な奴」

などと周囲が言っているうちは永遠に環境は改善されず、職場は我慢大会会場のままだ。これを意識するのは非常に難しいものではあるが、周囲の目を気にしていたのでは被害の申告は出来ないだろう。ハラスメント問題は起こした者だけでなく、その職場全員の問題であるという認識が何より必要であると思う。全員が当事者なのだ。

 

 

現在、懲罰を受け異動したその部長は体調を崩し入院されている。また告発したその部下も社内で孤立し、上司はおろか同僚からも相手にされない状況だそうだ。

 

これでは誰も幸せになれない。

 

「働きやすい職場」はマニュアルがあれば作れるものではない。そこには【心】がないからだ。我々は職場に【心】を入れ、現在の厳しい商況の中で共に戦う土壌を創っていかなければならない。

 

誰一人とて、働く事によって不幸になることがあってはならないと強く思う。