ミドリ草BLOG

ミドリ草BLOG

擦り切れそうな人間関係摩擦と経営者のワガママ暴言に辟易としつつ自己嫌悪と闘いながら今日も自立を夢見て

会社が死ぬ理由

f:id:negatio:20190226005920j:plain

 

「一体、君はこれからどうなりたいのだ?」

 

先日我が社の社長が我々総務部の管理職を招集し、次期人事異動について述べられたが、異動対象者の中にシステム管理担当者であるAの名前があった。次期よりAを営業部に異動させると言うのだ。

現在総務部の中では機械系の知識を有する者がAの他におらず、彼の異動は我が部署にとって相当大きな痛手となる。

総務部長はすぐさま反論に出たが、社長は意に介さず本異動を「Aの成長の為であり、君たちの成長のためでもある」と説明した。これに納得できない総務部長がキレ気味に、「納得できません!」と、珍しく大きな声を上げた。直後、社長が総務部長に放った発言が冒頭の一文だ。

 

「わ、私は…人の役に立つ仕事がしたいです。」

 

総務部長のその返答に、社長を含めその場にいた全員が一瞬茫然とした。質問に対する答えになっていない。社長はこれからの総務部の在り方を問うている。

が、今考えてみればこの時点で総務部長は思考停止に陥っていたのだろう。

専門職である我々バックオフィススタッフに於いて、考える専門家である経営トップの前で思考停止に陥るのは非常にマズい。

結局その後、少し手続き上の確認をした上でAの営業部への異動は決定した。

 

自席に戻った後、総務部長の「人の役に立ちたい」といった発言を思い出して、私は少し安心した。というのも、我が社の総務部長は絵に描いたような堅物で、正に「リスク回避の鬼」である。”石橋を叩いて渡る”というより”橋があれば渡らない”といった具合でリスク管理と回避に関しては徹底している。

総務部長の前ではリスク管理の名の下「ルール遵守」が絶対だ。感情や感傷の余地は一切挟んではならない。全ては「規定」に則って処理されるべきであり、危険は絶対に侵さない。

正に機械のような人だ…と感じていた。

そんな人がまさかパニくって「人の役に立つ仕事がしたい」などと部下の前で言うとは…。

 

会社は様々なルールに基づいて活動する事を与儀なくされるが、何より”法律”に則って運営されなければならない。違法な経営が明らかになれば、会社の生命は途端に危険に晒される。世の総務部長達はこういったリスクから自社を防衛する為に自らを「鬼」と化して嫌われ役を引き受け、日々の業務に取り組んでいる。それは我が社も例外ではない。

そんな「鬼」の人心に少し触れる事が出来たことで少しホッとしたのだが、同時にある「疑問」が湧いた。

 

本稿ではその ”疑問” について考えてみる。

 

総務部(管理部)のミッション

 万人の知る所ではあるが、一般に総務部/管理部が担うコーポレート機能としては下記のものが挙げられる。

  • 人事
  • 経理
  • 総務
  • 法務
  • 財務
  • 広報
  • 情報システム

バックオフィスの形態は会社の規模や組織形態、組織に対する考え方等により様々で、機能の有無や携わる人数、業務の難易度、部門の括り方はそれぞれ異なる。小規模な会社では社長一人が全てを担っている場合もある。

例えば我が社の場合では法務、財務、広報の機能は無い(専門スタッフを配置していない)し、総務と経理を合わせて1つの部門として扱っている。

だが、どんな形態であっても各機能においては専門的な知識や技術を要し、業務の特徴として”絶対にミスは許されない”

 

支払うべき給与が間違っていた、といったミスは実際よく聞く話だが、これは違法となるばかりか働いている従業員の生活や保障にも影響が出る。体調が悪い、又は休職中の従業員への対応を1歩間違えれば労災問題になりかねない。

従業員のすぐ後ろにはユニオンや労基署が控えている。

個別の営業スタッフでは解決が難しい権利問題や損害賠償に係るトラブルを処理するのも我々の大切な業務だ。対応を間違えれば訴訟に発展し、問題は長期化する。

等々、本当に些細なミスでも取り返しのつかない大事故に発展し、即会社生命を脅かす事態になりかねないという緊張感が日常の業務にある。しかも専門性が高い。

トラブルは常に我々の経験や知識の範疇を超え、知らない、分からない事の方が遥かに多いのに、それが致命傷に繋がってしまう。

勿論、各機能毎に専門家と顧問契約を交している。然しながら、先程言ったようにリスクは「日常業務」に潜んでいる。

我々が日常相手にしているのはステークホルダーや従業員等ではない。リスクと言う名の「恐怖」と戦っているのだ。

恐怖と戦うからこそ、我々は日々情報をフレッシュに保つ事で有事に備えなければならないし、自らの専門性を高める努力をしなければならない。知識が無ければリスク回避出来ない、と言うより恐怖に勝てない。安心出来ない。

しかし全員が各分野に於いて大学教授の如く専門家になれる訳は無く、またそんな必要性も無い。事故やトラブルを未然に防ぎつつ業務を遂行するには、既に安全安心が証明された「手順」と「ルール」に従って事務を処理すれば良いからだ。

決められた手順に従って間違い無く仕事を進める事が出来れば、又、決められたルールに従って意思決定していれば、無用な事故は起こらない。自分の感情や意志による先例の無い判断や処理、新しく導入するシステムや機械は何が起こるか予測がつかない。不測の事態を巻き起こすリスクなのだ。

そんな日々恐怖と戦う我々バックオフィススタッフが何より嫌うのは「変化」だ。

変化の先には見えないリスクが山程ある。

変化した先には先例のない、予測のつかない未来があり、コントロール出来ない。全てが想定外だ。然しながら変化した先でも我々はミスの無い業務遂行を強いられる。

そして、分からなかった、知らなかった、私のせいじゃないといった類の言い訳は一切通用しない。

だからこそ、我々スタッフは変化による未曾有の恐怖の対価として、それに見合う素晴しい未来を望む。リスクに見合う未来が無ければちょっとした変化であってもただのリスク、つまり ”恐怖” であると考える。

 

かなりアバウトな分析だが、総務や管理スタッフが融通の効かない堅物社員になる理由は概ねこんなところではないだろうか。

 

会社が死ぬという事

 

法律上、法人は法定された設立手続きを経て設立登記をする事によって産まれ、法定された精算手続きを経て精算結了登記をする事によって死ぬ。

しかし、中には活動を全くしていない法人も存在する。例えばその法人が株式会社であた場合、その会社は「生きている」と言えるだろうか?

経済活動をしていない以上、実質として「眠っている(休眠)」、または既に「死んでいる」といっても過言ではない。

同様に、活動はしているが流動的な社会の変化に取り残され、現在の経済規模を守らんとするも規模縮小を余儀なくされている数多の企業はどうだろうか。

守りの姿勢を以っても現状を維持できなければ縮小に歯止めが効かず、いづれは死んでしまう。

 

現在の社会は「第4次産業革命」の真っ直中だ。IoTやAIを用いることで起こる製造業の革新により、我々の生活や仕事のスタイルを始め、人間同士の関わり合いにも大きな”変化”の波が押し寄せている。

社会の変革は我々が追いつくのを待ってはくれない。よって全体が変化するのであれば、我々も変化せざるを得ない。

このような環境下で、変化を拒みルールや手順を絶対視する「守り」の姿勢は果たして正しいといえるだろうか?

これが先述した疑問の正体だ。

 

「管理の鬼」が必ずしも会社を救うとは限らない。リスクを恐怖としか捉えられないマネジメント至上主義である管理スタッフが会社で大きな権限を持ち、”恐怖”で支配し始めたとき、会社の成長は止まる。

現状のシステムや価値観を維持し、変化する事を放棄したまま100年後、いや10年後にも変わらず同じ水準の経済規模を守り抜ける企業は存在しないだろう。企業は常に変化に対応し、少しづつでも付加価値を産み続けなければ社会に存在し続けることが出来ないからだ。

そして昨今のような変化の激しい時代には適応行動に更に”スピード”が求められる。あっと言う間に変わりゆく社会の変化に対応しないままズルズルと現状維持を続けると、社会基準との断絶が大きくなりリカバリーが効かなくなる。

時代遅れになった会社に未来は無い。これは何より大きなリスクである。

つまりは 恐怖に支配された瞬間、我々の「死」が始まると言える。

 

バックオフィスの真のミッションとは

 

コストセンターと揶揄される我々バックオフィサー達の本当のミッションとは何だろうか。

確かに、企業が行う日々の営業活動を適正なものとし、社会のルールに乗っ取った運営を下支える為に色々と腐心する事も我々の大きなミッションである。時には融通が効かない頭でっかちな発言や行動もしなければならない。ダメなものはダメとハッキリ言える人間でなければ管理セクションでは使い物にならない。

また、業務の特性上機密情報を取り扱う機会も多い。頭の中は個人情報を含めリスキーな情報で一杯だ。然るに管理セクション以外の従業員との必要以上の馴れ合いは厳禁である。酔った勢いで要らない事までペラペラ喋るような人間はそもそも社会人として失格であるが、そんな人間が管理セクションに在籍すれば会社の未来に深刻な影響が出かねない。

そんな我々は、つまりは堅物であれば”良いバックオフィサー”なのであろうか。否、これは我々の一面である。

 

我々の真のミッションは、トライ&エラーを繰り返して進化しようとする会社のリスクを可能な限り低減することで ”変化を増長する” 事にある。

変化する事に対する恐怖を可能な限り排除し、安心して挑戦できる環境を整える事こそ我々コストセンターの役割だ。各セクションのスタッフが各々専門性を磨き上げる目標も本来はココにある。

 

「安心して失敗してこい!後ろには我々がついているぞ!」

と胸を張って言える者こそが”良きバックオフィサー”だ。

 

ルールや手順を決めて全員に守らせることだけが我々の仕事ではない。同じ会社で働く皆をあらゆる方面から支援する事で事業活動を活性化させ、会社を正しい未来へ導く事こそが我々の存在価値である。

 

恐怖に支配されて思考を止め、ルールに逃げてはならない。未来に立ち向かう為に、我々にはもっともっと”勇気”が必要だ。

 

バックオフィサーこそ激変する社会の変化に翻弄されず、「攻める姿勢」を忘れてはならない。